「謎がとけたときに」(豊島)
9月です。まだまだ日中暑い日も多いけど、夜には秋の虫が鳴き始めて、段々涼しくなってきた気がします。このブログでもよく外から聞こえる音のことを書くのですが、「ジーーー」というクビキリギスの声にはじまり、夏にはアマガエルの大合唱、それがいつのまにか秋の虫の声に移り変わっていておもしろい。
ところで梅雨明けに全滅したかに見えたトマトですが、その後サンサンと太陽を浴びて部分的に新しい葉っぱが生え、まさかの花が咲きました!あといくつか蕾もついています。嬉しい!さぁ、ここから実を結ぶのか…あまり期待せずに待ちたいと思います!
沖縄や九州は大きな台風が近づいていますね。仕事で九州地方の方と電話する機会が多いので心配です。どうか大きな被害がでませんように…
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前回の加藤さんの写真、我々の生まれ年1989年のオフィスってみんなあんな感じだったのですか…!?ザ・バブルですね…!その時代に会社員だったら、私どんな服着て出社していたんだろうか…それにしても加藤さんはあぁいう服が似合いますねぇ。
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さて、今回のお題は「謎がとけたときに」だそうです。文章の構成はともかく、脳内には楽しい世界が広がりました。是非よんでください!
「謎がとけたときに」
あの人の、マスクの中、みたい。
あの人は週一回、自販機の中身の補充でやってくる。私の座っている受付の席から、ガラス戸を隔てたところにその自販機はある。
3年前の夏に、あの人ははじめてやってきた。ただでさえ息苦しい暑さなのにマスクをしていて、その次の週もそのまた次の週もマスクをしていて、そんな人滅多にいないから私は「マスクさん」って名前をつけた(心の中で)。今ではそれは普通のことだから、マスクさんは時代を先取りしていたことになる。
4月のある日、コロナ対策で換気をしなきゃってことになって、私の前のガラス戸はつねに全開にしておくことが決まった。
ガラス戸一枚あるかないかで、毎日見続けていた景色は違って見える。そんなわけでわたしは、ガラスごしに眺めていたマスクさんを直接みることになった。
ガラス戸が無くなって解像度があがったマスクさん。あんまり見ると失礼だと思いつつ、なんとなく新鮮だからばれないように観察していたところ、私は発見してしまった。
マスクの中で、何かがうごいている!
なんとなく、マスクがパンパンなような、中から何かが押しつけているような、そんな気は前からしていた。だけどまぁ、そういう人もいるかなと思って、あんまり気にしていなかった。
しかし、その何かが、マスクの下でうにょうにょとうごめいていることに、気付いてしまったのだ!
・・・どういうことなのかな?すっごい出っ歯で、さらに歯ぐきがやられてて、歯がグラグラで、それがマスクの下でゆれてるとかかな?
いやそうじゃない。ゆれてるとかいうレベルじゃなくて、何かが自発的にマスクの下で動いている。ように見える。
―こうして私は、マスクさんのマスクの下が気になりすぎて気になりすぎて、夜も眠れない!という毎日を送るようになった。
観察できるのは週に一回。私はそのチャンスを無駄にしないように、ちょっとピントが合わなくなっていたコンタクトを作りなおした。値段はあがっちゃうけど、視界をクリアにするために乱視矯正もいれてもらった。
ところが、である。気合をいれたのもつかのま、緊急事態宣言が発令され、弊社はテレワークが採用されることとなり、私の出社はなくなってしまった!のである!
そして月日はたち、久しぶりに出社した7月。私はついに、マスクさんと再会を果たすことになる。
マスクさんは、巣ごもり生活の影響なのか前より若干太っていた。その影響で、マスクもぱつんぱつん。結構キツそう。私は全神経を集中して、マスクさんの、パツパツのマスクのその向こう側にあるものを解き明かそうとした。
そのときであった!マスクさんは、大きな大きなくしゃみをしたのである!
プツ…
あ!マスクさんの、マスク右上の紐がきれちゃった!
そしてマスクの中の謎は、あっけなく明らかになった。
マスクさんは、口の部分がイソギンチャクになっているのであった。すっごくきれいなオーロラ色。帰ってググったら、暗闇で発光する種類っぽかった。
なるほど~、だからなんとなく、磯の香りがただよってきたわけだ!
私はまよわず、受付の予備のマスクを手に取ってマスクさんのところに走っていった。
「これよかったら、どうぞ」
マスクさんは驚いたような顔で私をみた。
「・・・今度一緒に、海にいきませんか?ダイビングが趣味なんです」
ドキドキしながら、私は言った。
マスクさん、いやイソギンチャクさんは、真ん丸の目をしながら、差し出したマスクに手をのばした。ちなみに、ダイビングなんて一回もやったことない。(終)
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