お久しぶりです(豊島)
みなさま大変ご無沙汰しております…加藤さんの更新から三週間以上溜め込んでしまいました…ごめんなさい。
この三週間の間、「TAMA NEW WAVE」と「田辺・弁慶映画祭」で『距ててて』の上映があり、本当にたくさんの方々に作品を観ていただくことができました。どちらも残念ながら入賞することはできなかったのですが、作品を観てもらい、作品について言葉を交わすことができるのは本当にありがたく、どちらの映画祭でも『距ててて』のことをものすごく好きだと言ってくださる方と出会えてとても幸せな時間でした。
また個人的にはこの映画について話すとき、ある人が「ここがものすごく良い」という部分を別の人が「ここはもったいないと思った」と言ったり、逆に「ここはいらないと思う」と言われた部分を別の人が「ここが最高」と言ったり、人によって評価が全然違うのが面白くて嬉しかったです。
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島の写真すごく綺麗ですねぇ。私も景色を上手に撮れるようになりたいけど、私が撮るといつもパッとしない感じになってしまう…。
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さぁ、連続ブログ小説第17話。自分でも何を書いてきたのか忘れて困ったので、連続ブログ小説のまとめページを作りました。もしまとめて読みたい方、過去を振り返りたいっていう稀有な方がいらっしゃいましたら下記リンクからぜひ読んでください。
※ちなみに無茶長いです。こんなに書いたんだな、、
ではでは、最新回です。今回のお題は「交代」。どうぞ!
【17】
「ついた…。」
フラフラとした足取りで先程の円形広場へ戻ってきた私とミキさんは地面へたりこんでしまいました。
大量の鶏の鳴き声、その不規則性は私を混乱させ、戸惑わせ、養鶏場に居続けることはできなかったのです。養鶏場の外へ出ると、そこには体中をかきむしるミキさんの姿がありました。ミキさんは中へは決して入らなかったけれども、それでも鶏の鳴き声からトサカの質感を想像してしまったことで、全身に蕁麻疹が出てきているとのことでした。
こうして私たちは逃げるように養鶏場から離れ、歩き出しました。しかし外へ出ても、鶏たちの声は延々と追いかけてきて、その声が届かなくなるまで、私たちはかなりの距離を歩かねばなりませんでした。
しかも、外はとてつもなく熱い。とても日本とは思えないほどジメジメ気温が高いのです。だから私たちは、鶏の声が届かなくなっても、やっぱり止まるわけにはいかず、こうして今なぜだかひんやりと涼しい円形の広場へと戻ってきたのでした。
私たちがへたり混んでいると、先ほどワゴンを拭いていた、大きなKのアップリケが施された黄色いトレーナーを着た男性が近づいてきました。
「お客様ぁ〜あいかがなさいましたぁ〜?」
黒縁メガネの男性は独特すぎる節回しで言葉を発しました。横ではミキさんが不審感を隠さない表情でその男性を見上げています。
「ごめんなさい、ちょっと歩いてきたらとても暑くて…」
「あ少々、少々お待ちくださいませぇ〜」
その男性は小走りに建物の中へ入っていき、水を持って帰ってきました。
「あいお待たせいたしましたぁ〜」
ペットボトルを手渡された瞬間、私の体には電流のような衝撃が走りました。癖が強すぎる節回し、黒縁メガネ、しわがれ声…。
この人…ビッグパワー特売コーナーのお祭り男だ!
「じゃあたくしちょっと交代でございましてぇ、何かあればお気軽にその辺にいるものにお申し付けくださぁ〜い」
そう言って去っていく後ろ姿を見ながら、私はこの街についたときの不思議な気持ちが解き明かされていくのを感じました。さっきお祭り男と共にワゴンを拭いていた1人はマンテンの品出し担当畑さん、今お祭り男と交代で出てきた女性はTORIMOTOの鮮魚コーナーにいた吉木さん、円形広場をぐるっと取り囲む色とりどりの屋根をした建物の中ではそれぞれ、各種スーパーで特売の時間を支えていたカリスマ店員たちが粉をふるったり、生地を捏ねたり、メロンパンの表面に格子状の模様をつけたりしていたのです。
あ!あそこでメロンパンのビスケット生地をパン生地に乗せているのはビッグパワーの林田さん!そう、あのレジ打ちの天才、通常ブラインドタッチの鬼です。ビスケット生地のせの鬼と化した林田さんはものすごい速度で生地をのせていき、横にいる模様づけ担当にパン生地を送り込んでいきます。手早い作業の繰り返しによって全く乱れずに刻み続けているそのリズムは養鶏場の混乱から私を救い出し、むしろ体中が喜びで満たされていくのを感じました。
あちらの部屋ではTORIMOTOで値引シールを超速で貼っていた三島さんが手際よくリズミカルに小麦粉をふるい続けている。あちらの部屋ではマンテンの精肉コーナでマンテン名物の激安ハンバーグをこねていた秋田さんが流石の手捌きでパン生地をこねている。私は各部屋の窓越しに見える匠たちの仕事を、うっとりとした気持ちで眺めていました。
ゴクリ、ゴク、ゴク、ゴクリ、、
「静かに!!!」
「え、なに…だめすか水飲んじゃ…」
「あ…!ごめんなさい、どうぞどうぞ。フフフフフ」
私は反射的にミキさんにこう言ってしまうほどこの空間、そして各部屋で奏でられるリズムに酔いしれていました。ずっとずっと、ここでこのリズムに浸っていたい。そんなことを感じていたのでした。(続く)
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