今週のお題:「まとめない」(豊島)

日曜日です、すみません。昨日は雪が降りましたね!!!用事をすませて建物を出た瞬間、自分の目を疑いました。数日の間に20度近く気温が上下する…体調を崩さないほうが難しいですよね。なんとか乗り切りたい…。


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加藤さんのブログから定まっていない企画タイトルの件が姿を消してはや2週間です。

もう「今週のお題」になってきましたね…。これでいっか?


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さて、その今週のお題は「まとめない」です。

今回は「まとめない」から連想したお話を考えてみました。

お楽しみいただければ幸いですー!


「まとめない」

その老人の家を人はゴミ屋敷と呼んだ。


庭にはゴミ袋が大量に放置され、窓を見ればカーテンが押し当てられるようにして張り付き、その隙間からはやはりゴミ袋の白い重なりがみえるのであった。


近隣の母親たちは「危ないから決してあのゴミ屋敷には近づかないように」と子供たちに教え込み、明らかに小学校への最短ルートであるその道は、もう何年も前に通学路からはずされてしまった。


「この街の景観を損ねる」と怒り心頭の住民たちは何度も役場に電話をし、「このままでは治安悪化が懸念される。街の平和な日常が崩壊しかねない」と強い口調で訴え続けた。


ある夏の日、クレームの電話に音をあげた役場の若い担当者は、重い腰を上げ老人と話をするため「ゴミ屋敷」へと向かった。確かに敷地内や、窓からチラリと見える家の中は白いゴミ袋で埋め尽くされている。


恐るおそる小さな門の横に設置された古びたインターホンを押してみる。沈黙。反応はない。


仕方なく、門をあけて敷地内に入り、地面を埋め尽くすゴミ袋を乗り越えながら、いや踏みつけながら玄関のドアに近づいていく。こないだ捨てたスーツがまだあれば、あれを着てきたのに…彼は新調したてのスーツの裾をひっぱりあげながら、そう考える。


ドアをノックする。沈黙。もう一度ノックする。反応はない。ため息をついて振り返り、そしてドアに背を向けた瞬間、彼はある違和感に気付く。


じっと庭に転がるゴミ袋をみつめる。白い半透明の袋で統一されたそれらは、大体が同じような大きさである。あまりに同じ種類のゴミ袋が大量に集まると、混沌としたそれらが、きちんと整理されたもののように思えてくる。白は清潔を想起させる色。清潔?


あ!においがしない。


ゴミ袋で埋め尽くされたその様子から、そして「ゴミ屋敷」という言葉からイメージされる、あたり一面に漂う生臭いような異臭が、全くもってしないのである。


不意になぜだか不安な気持ちになった彼は、速足でゴミを踏みつけ踏みつけ、そして小さな門から逃げるように出ていったのであった。


その後も鳴りやまないクレームの電話に彼はしばしば「ゴミ屋敷」へと向かわざるをえなかった。だがしかし、何度足を運んでも結果は同じで家の中からは物音一つしない。それでも庭のゴミ袋は行く度あきらかににその数を増やしていて、ゴミで地層でもできそうな様子である。


しかたなく若い担当者はパソコンでA41枚の書類を作成し、ポストに投函することにした。


「住民の皆様から苦情が来ています。早急に庭や室内のゴミをまとめ、処分してください」


もとよりこんな紙切れなど何の意味もないことはよくわかっていた。ゴミの中で暮らす老人がわざわざポストを確認し、その中にある手紙の封を切って読むことなど考えにくい。しかし彼には、「ここまで対応しましたが…」と住民に説明する必要があった。彼にとって立ち向かうべき相手は無臭の、気配すら感じさせない老人などではなく、電話で窓口で自分の権利を声高に主張しつづける口うるさい近隣住民なのであった。とりあえず役場としては精いっぱいの対応をしている、しかし反応がない以上、私有地なのでどうすることもできない。こんな言葉で収まりがつかないことはわかっているが、とりあえず次に来た時の言い分は用意できたわけだ…。


だが、手紙を出してから4日後。驚くべきことに、彼のもとには老人から返事の便りが届いたのであった。


白い封筒に毛筆で書かれた宛名。流れるようなその字は素人の彼から見ても感心するくらいに達筆である。封筒の上部をハサミで切り取り、中をあける。中には2枚の便箋が入っているが、書かれているのは1枚だけのようだ。便箋を取り出す。


そこにはたった一行、宛名書きと同じ毛筆の美しい文字で、便箋の余白をいっぱい残してこう書かれていたのだった。


「存在の、あかしなのです。お許しください。」


彼は、彼の内側、足の方からジワジワと何かが広がっていくことを感じた。


デスクの真ん中の、便箋を持つ自分の手が段々と冷たくなっていった。


自分がなぜここまで動揺しているのか、自分でもよくわからないのであった。


数分後。彼は桜の花びらが描かれた便箋をゆっくり封筒に戻し、目をつぶって深く息をすい、そして、はいた。(終)

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暇すぎてついにスマホゲームに手を出しました。小学生以来の動物の森。昨日ダウンロードしてひたすらやり続けていますが、すでに飽きの気配が漂っています…。

次のお題は「飽きる」で!

点と___web

加藤紗希と豊島晴香による創作ユニット[点と]のウェブサイトです。

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