「ほんとやめて」(豊島)
こんにちは!最近土曜or日曜更新という感じになってきてしまいました、ごめんなさい。今週もスルスルスル~っと過ぎて行きました。
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sofabedさんの"CONTINUUM"のMVは観ていただけましたでしょうか?この作品のロケ部分の映像は実は去年撮影したもので、本当は編集するにあたり新たに別の場所へロケに行きたかったのですがコロナの影響で断念。手持ちの素材を組み合わせて試行錯誤した結果生まれた作品です。加藤さんがステイホーム状態で色んな工夫を重ねて頑張ってくれました。まだの方いましたら是非みていただけると嬉しいです!
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さて、今回のお題は「ほんとやめて」。自粛続きでいよいよ脳みそが煮詰まってきた感が…外に出てのびのび動けるようになったら書く物にも影響があったりするのかしら??これからの日々で実験ですね。早く実験できる日が来ますように!
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「ほんとやめて」
私はガラン、としたスーパーにいました。
このスーパーは24時間営業で、残業で終電を逃しタクシー帰宅になったときにも営業していていつもとても助かっています。だけど2時とか3時とかにいくと人はほとんどいなくて、店員さんも入口近くのレジに一人いるだけ。今、私は広いスーパーの中でポツンと醤油コーナーの前に立ち、どれを買おうか棚を眺めているのです。
私は迷った末にやっぱり最終的にキッコーマンの醤油に手をのばし、数々の魅力的な醤油が並ぶ中いつまでたっても冒険に踏み出せない自分のことを情けなく思いました。
そのときです、今まさにキッコーマンの醤油にふれんとするまさにそのとき、私はみてしまったのです。となりに鎮座していたヤマサの醤油から手が出て、キッコーマンの醤油ボトルに強烈なエルボーを食らわせるのを。ふいうちを食らったキッコーマン醤油ボトルは後ろにのけぞり、その後ろでいよいよ自分の番がくると目を輝かせていた2番目のキッコーマンボトルを倒し、さらにその後ろでいよいよ明るいところにいけると心弾ませていた3番目、空気がすえると胸躍らせていた4番目がドミノのように倒れていきました。
私はあぜんとしてその場でかたまりました。さすがに寝不足が過ぎておかしくなってしまったのか。立ったまま寝て夢を見たのか?だけどじゃあ、私の目の前で倒れているこのキッコーマン醤油ボトルはなんだ。手に取ろうとした際、何かの拍子に奥へ押してしまったのだろうか。でも私の右手には何かに触れた感触は残っていない。
…とりあえず倒れたキッコーマンたちを元に戻さねば。本当はそのまま手をつっこんで立てたかったけども、左右にヤマサとヒガシマルのボトルがぎっしり並んでいて隙間がなく、しかたなく私は一本一本倒れたキッコーマンのボトルを取り出して一度私のかごに入れ、奥まで到達したところで立ててまた一本一本戻していきました。あぁ、こうやって私は、やらなくてよかった仕事を増やして帰る時間が遅くなるのだとちょっぴり涙もでました。
しかしです。やっと前から2番目のキッコーマンボトルを置き終えた瞬間、今私が立て直したボトルたちが一斉に左側に勢いよく倒れ、ヤマサのボトルたちに思い切り頭突きを食らわせたのです!ヤマサのボトルは全員バランスをくずして左側に倒れ、そのとなりのミツカンポン酢、ミツカンゆずポン酢、ヤマサ昆布ポン酢、そのとなりのめんつゆゾーンの商品たちが次々となぎ倒されて行きました。
「ほんとやめて!」
私は叫びました。ここから数時間この醤油売り場でひたすら商品を並べ続ける未来が見えたからです。
だけどもう、彼らは私の声が届くような状態ではありませんでした。おそらくは100本を超えるであろうボトルたちが大げんかをはじめたのです。醤油の中身は泡立ち、ポン酢の瓶はぶつかるごとにすごい音を立てていました。私はポン酢の瓶が割れるのではないかと気が気じゃありませんでした。
もうこうなってしまうとどうしようもありません。なすすべなく、私はその場で体育座りをしてこの大騒ぎを眺めていました。数段下に並べられたミソたちが、私のことを白い目で見ているのがわかりました。私は自分が何をやっているんだか恥ずかしい思いでうつむいてしまいました。
ところが。なんだか、なんでだか、私の心が徐々に徐々にザワザワしはじめていることに気付いたのはそのときでした。
そもそも、喧嘩の発端は私がキッコーマンを選ぼうとしたことです。そう、つまり嫉妬。ヤマサは私がキッコーマンを選ぼうとしたことに嫉妬した。つまり、大きな視点でみれば、今このボトルたちは私を奪い合って壮大な喧嘩を繰り広げているという見方もできるわけです。
そう気づいたら、なんだか突然私が、いつも仕事ばかりでさえない生活を送っている私が、壮大な物語のヒロインみたいな気持ちになってきました。
「わたしのために、あらそうの、ホントやめてぇ!」
もうこうなったら止まらない。私は頭のてっぺんから爪の先まで囚われの姫になり、渾身のセリフを発しました。幼少期、おままごとで与えられた役を全身全霊でこなすことから憑依型と言われていた私の本領発揮です。
「あらそわないでぇぇぇぇぇ!」
まぶたを閉じると、私の目いっぱいにたまっていた熱い涙がほおを伝っていくのがわかりました。
わたし、今、いきてる・・・。強くそう感じました。
・・・どのくらい時間がたったのでしょうか、5秒くらいか、それとも数分たったのか。再びゆっくりとまぶたをあけたとき、視界に飛び込んできたのは、おびえた目で遠巻きから私をみる大学生のバイト店員、そして、各メーカーの醤油が規則正しく物静かに並べられた商品棚だったのでした・・・。(終)
トマト、だいぶ育ってきましたが順調なのか成長が遅いのかわかりません!
先週お題を出しわすれましたが、次の加藤さんへのお題は「楽園」にします。家の中で楽園をみつけてね!
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