【思文会】投げつけられたチキン編(前編)(豊島)

豊島です。1月も、もう3分の2が終わってしまいました。早いですね~

インフルエンザが大流行していますが、温かいものを食べて、なるだけたっぷり寝て、元気にすごしたいものですね。


前回ブログで加藤さんが紹介していた青ヶ島は本当に素晴らしい場所で、紗希ちゃんがパフォーマンスの指導をした小中学生をはじめ、島の方々とすごした時間は楽しくて幸せなものでした。そして全力で子供たちにパフォーマンス指導をしつつ、さぞ疲れるだろうにわずかでも時間があけば即座に短編のことを考え出す加藤さんの姿にこの人ツワモノだなと思わされた日々でした。執念で撮影した短編、絶賛編集中ですが、面白いものにしたいです。(とにかくロケーションは最高です)


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さて、先週は去年から仲間たちに声をかけてチビチビ動いているプロジェクトのワークショップを実施したりしたのですが、それはまた改めてご報告すると思うので…私はちょっと、近況報告とは違う形でブログを更新していきたいと思います。

私は日常生活で遭遇したおもしろ事件を会う人会う人にペラペラしゃべってしまう性質があるのですが、これまでの人生で蓄積してきたわたしのしゃべりたいネタたちを、読み物として文章にしてみようという企画です。


第一弾は、私の知り合いなら大抵一度は聞かされているであろう、どうしても人に話したくなってしまう、バイト先の某フライドチキン屋でおきた事件についてです。(とはいえ私がやらかしたことによって勃発した事件なので、その点はほんとに反省してます…10年ぐらい前の話ですがご迷惑をかけた方々すみませんでした…!)


そして初回からあれですが、書いてみたらめちゃくちゃ長かったので、前後編にわけます。

果たして読んでくれる人がいるのか不安しかありませんが、とりあえずやってみようと思います。是非お読みいただけたら幸いです。


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【フライドチキンをなげつけられた話①】

その事件が起こったのは、私が20歳になって初めて迎えたお正月から数日後、1月5日ぐらいのことだったかと思う。新春独特の、まだ町が完全には動き出していないようなあの静けさの中、私は当時バイトをしていた某フライドチキン屋に新年初めての出勤をした。

その店舗のお客さんは家族連れというよりは近くにあった工場で働く人たちが中心だったので、年があけてまだ間もないその夜は店にチキンを買いに来る人はあまりいなかったように思う。私は正月あけのボーっとした頭で汚れてもいないカウンターを拭いたり、大して減っていないジュースの蓋を補充したり、ガラス越しに見える通りを眺めたりしながら時間をつぶしていた。

 

そんな中、一人の男性が店に入ってきた。


「いらっしゃいませ」


もはや反射的に口からでるこの言葉を、いつものように私は言った。


ちなみに余談ではあるが、私は当時入口から人が入ってきた瞬間に「いらっしゃいませ」と言うクセがついてしまっていたので、古民家を改装したいい感じのうどんやさんに食べに行った際、別のお客さんが木戸をあけて入ってきた瞬間とても大きな声で「いらっしゃいませ」と叫んだことがある。店員さんも、友人と談笑しながらうどんまちしていた女子大生が自分を差し置いて「いらっしゃいませ」と叫んだので、さぞ困惑したと思う。


話がずれました。


「いらっしゃいませ」


店へ入ったその男性は、まっすぐカウンターのほうへ歩いてきた。


「チキン5本、足の部分。持ち帰りで」


足の部分というのは、手で持って食べやすい、ザ・フライドチキンなあの形である。某フライドチキン屋には5種類の形のチキンがあり、常連さんはしばしばパーツを指定してくる。ただ、当たり前のことながら一羽の鶏から取れる部位は限られているので、店員は残りのチキンをみてバランスよく出すものをチョイスしていく。中でも圧倒的な人気を誇る足の部分しばりで5本というのはなかなかの強者である。


恐らく今はパーツ指定全面禁止になっていると思うが、当時はまだわりとゆるかったため、私(当時20歳)は何も考えず「かしこまりましたー」と注文を受け付けた。ま、どうせあんまお客さん来ないし、今日はいいだろ。そして背後にあるショーケースに「チキン×5」と印字された伝票を貼り付けてからチキンを取り出し、手早く箱詰めしたのちお客さんに渡す。チキンの入ったビニール袋、そして一緒に買ったサラダが入ったビニール袋を受け取った男性は、お会計を済ませたのちに自動ドアから出ていったのであった。


店に静寂が戻る。また私はボーっとカウンターを拭くなどしながら時間をつぶしはじめた。どうせまたしばらく人来ないだろうなぁ…今日はやく帰れるかなあ…


だがしかし。わずかにその数分後、再び自動ドアはあいたのだった。


「いらっしゃ」


反射的に言いかけた、その瞬間…


「おめぇ!さっき足の部分っつったじゃねーかよぉ!」


店内に怒号が響き渡る。

さきほどの男性が、鬼の形相・ものすごい勢いで私が立っているカウンターに近づいてくる。

そして男性はチキンパックが入ったビニール袋を後ろ側にブンと振りまわして勢いをつけ、気づいたときには男性によって投げつけられたチキンパックが私の横をものすごい速さで通過していた。唖然として固まる私。


「もういらねーよ!!!」


そう吐き捨てた男性は怒り心頭で店を出ていく。肩をいからせながら通りを歩いていく男性の姿がみえる。


…店内に恐ろしいほどの静寂が流れる。速すぎる自分の鼓動だけが聞こえてくる。ショーケースの後ろにいるシフトリーダーに声をかけられるまで、気づけば私はずっと同じ体勢のまま硬直していた。はっと我に返り、ゆっくりと・恐る恐る振り返る。


そこに広がっていたのは、チキンパックがぶち当たって中身が散乱し油まみれになったショーケースと、床に無残にも転がった5本のチキンの姿…。「足の部分5本ですね」…笑顔で承り、お客さんに手渡した、フライドチキン。その5本のチキンの中には、足の部分は、一本も入っていなかったのだった…。(続く)

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加藤紗希と豊島晴香による創作ユニット[点と]のウェブサイトです。

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