【思文会】歯ぐきにピーナツを蓄えていた幼少期編(後編)(豊島)

今日はとあるお芝居を観に行って、とても良い舞台で、良かっただけになんだか心に来てしまい、家に帰ってもざわざわ落ち着かなかったのでこういうときは風呂だ!と隣町の銭湯にいってきました。落ち着くためにいったのに住宅街の中にあるはずの銭湯がなかなか見つからず、道も暗いし、おまけに携帯の電池も切れて行きはますます心細くざわざわした気持ちになりました。でも歩いていたおじちゃんが親切に道を教えてくれて、銭湯にはあかちゃんやおばあちゃんも入っていて、お湯はあったかくて、今とてもほかほかした気持ちで帰ってきたところです。


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前回加藤さんが餃子の写真をあげていましたが、さきちゃんは本当に餃子が好きみたいでしょっちゅう食べています。私はうちの実家の餃子がどの餃子よりもおいしいと思っているので、いつか食べさせてあげたいです。にらと白菜がたっぷり入っているのですが、母親がおおざっぱで肉の練り方が粗いので、逆に肉肉しくてとてもおいしいです。


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さて、それでは「思い出を文章にする会~その③歯ぐきにピーナツを蓄えていた幼少期編」の後編をお届けします。ぜひよんでくださると嬉しいです!

(前編はコチラ


【前回の振り返り】

幼少期、おやつの時間以外にお菓子を食べること・テーブルに座らずにお菓子を食べることを禁じられていた私は、ある日キャラメルコーンのピーナツが歯ぐきと上唇の間にすっぽりと収まることに気付く。歯ぐきにピーナツを蓄えれば、おやつの時間が終わっても好きなタイミングで、好きな場所でピーナツをかみしめることができるのだ。この大発見をしてからというもの、おやつにキャラメルコーンが出た際にはこのピーナッツ作戦を実行することが私にとって日常になっていった。

しかし、その日常はあることをきっかけにあっけなく幕を閉じることになる…。



当時の私は鼻の調子が悪く、家の最寄り駅から数駅先にある地域で評判の耳鼻科に通っていた。通っていた耳鼻科の先生は、腕は良いらしいがなかなかに怖い先生で、おまけに耳鼻科は鼻にへんな長い綿棒みたいなやつを入れられる際めちゃくちゃ痛いので、私は通うのが本当に嫌だった。


その日はおやつを食べて夕方から耳鼻科に行く予定であった。おやつはあのキャラメルコーン。そして待ちに待った、ピーナツが出現するターンであった。甘い蜜の味を知ってしまった当時の私は、もはやピーナツが出れば歯ぐきに蓄えずにはいられない。辛い辛い耳鼻科へいくモチベーションを上げるため道中で景気づけにピーナツを食べようと思い、いつもどおり歯ぐきにセッティングしたのであった。


歯ぐきにピーナッツをつめた私は、何食わぬ顔で母親が運転する車の助手席に乗り込んだ。ハンドルを握る母は全く気付いていない様子。うふふ、まさか私の歯ぐきにピーナツが挟まっているなんて、お母さん思いもしないだろうな…。よし、あとはお母さんと離れたタイミングでピーナツを美味しく噛みしめようではないか。


だがしかし。6歳の私はここで、非常事態に気付く。……あれ?…これ、診察まで、お母さんと離れるタイミング、なくない…?


いつもは母親のいるリビングを離れて子供部屋にいったり、公園に遊びに行ったりしておきて破りの時間外ピーナツを味わっていた私。母の近くを通る際に顔を背けてばれないようにしてはいたが、根本的には気が小さい人間なので母親の近くで堂々と口を動かす勇気もなく、多分噛む瞬間は母親から離れた安全地帯に逃げ込んでいたのだ。


まずい、この近さでピーナツを食べることなんて、恐ろしすぎる…。外でお菓子は食べちゃダメなのに、ばれたら確実に、怒られる…!今思えばものすごく些細なことではあるが、当時6歳ぐらいの私にとって、お母さんに怒られることイコールこの世の終わりを意味していたのである。


運転席と助手席の距離感で口をもぐもぐさせることなど当然できず、歯ぐきにピーナツがはさまったまま車は無情にも病院の入っているビルの駐車場に到着する。おそらく相当に追い詰められていたのか、フロントガラス越しの薄暗い駐車場の雰囲気をすごくよく覚えている。


そしてエレベーターに乗り、いよいよ耳鼻科に到着。ここの耳鼻科はいつもすごく混んでいて、待合室で座れたとしても狭いスペースに母とキュッとくっついて座らなければならない。到着してからの記憶は曖昧だが、おそらくその日も母のすぐ隣で待ち時間を過ごしたのだと思う。


大人になった頭で考えると、いくらでもこの緊急事態を回避する方法はある気がするが、そこはまだ子供である。トイレとうそをついて物陰で食べる知恵も働かず、ピーナツを噛む喜びを捨てきれなかったのか隙を見て噛まずに丸飲みすることもできず、どうしようもできずに刻一刻と時間がすぎていく。


結局何もできないまま、ついに歯ぐきにピーナッツが入った状態で診察の順番は回ってきたのである。診察室に入ると、いつもの怖い先生が座っている。私の緊張は極地に達する。


「はい、じゃあお口あーんしてください」


私が席に座ると、怖い先生が言う。意を決し、上くちびるをキュッと引き締めつつ限界ギリギリのラインまで口をあけようとする私。


ポトポトッ…


無駄な抵抗もむなしく、口をあけた瞬間、即ピーナッツ落下。


すぐにばれてティッシュに吐き出させられ、回収されたのは言うまでもない。

その後のことはすっかり忘れてしまったが、当然先生にも母にも怒られたであろう。


そして相当こっぴどく叱られたのか、この出来事の後はもうピーナッツ作戦を実施することはなくなったような気がする。正確なことはわからないが、その後もやり続けていた記憶はない。


あるいはこの一連の出来事も、本当にあったことなのか、それとも私の記憶がねつ造した出来事なのか、実はいまいち自信がない。なぜなら幼児の歯ぐきにピーナツを挟みつつしゃべることなど本当に可能なのか定かではないからだ。ただし、この一連の出来事が全部私の妄想で作り上げられたものだったとしたら思考回路がだいぶやばい人になってしまう気がするので、おおよそは事実だと思いたい。


6歳当時ピーナツが大好きだった私は今、キャラメルコーンはピーナツよりコーン派・柿ピーはピーより柿派のアラサーになってしまった。そして先日突如気付いたが、大人になった私は今、かつてその耳鼻科があったビルの最上階で働いている。(完)



今日、チャリのかごで待機しているわんこをみました。癒された。

点と___web

加藤紗希と豊島晴香による創作ユニット[点と]のウェブサイトです。

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